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Hamaguchi Lab.
濵口研究室

― 物質と生命をつなぐ分光物理化学 ―

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研究レビュー 2002年度

(1) 何故励起電子状態では2重結合まわりの回転が起こるのか:光異性化反応の動的分極モデル

基底電子状態ではC=C2重結合まわりの回転は起こらず、その結果シス/トランス幾何異性が生ずる。しかし、2重結合を光によって電子的に励起すると、回転が起こり異性化反応が進行する(光異性化反応)。我々は時間分解ラマン分光によって、光異性化反応が進行するtrans-スチルベンのS1状態において、中央の炭素−炭素結合が2重結合であることを示した。即ち、S1 trans-スチルベンでは、確かに2重結合まわりの回転が起きている。では、どのようにして2重結合回りの回転が起きるのだろうか?我々は、S1 trans-スチルベンのC=C伸縮振動数と異性化反応速度の溶媒依存性が、線形の相関を持つ事を見出し、その解析からC=C2重結合がC+-C-(またはC-C)単結合へ分極し、その結果回転が可能になるという新しいモデルを提出した(図1)。このモデルでは、C=C2重結合の分極は、溶媒場の揺らぎによって動的に誘起される(溶媒誘起動的分極)。最近、このモデルをさらに支持する実験結果が得られた。図2は、S1 trans-スチルベンのC=C伸縮振動数と異性化反応速度kisoの相関を3種の溶媒(ヘキサン、オクタン、デカン)について異なる温度5点で調べたものである。各温度に対して線形の相関があり、かつ反応速度がゼロの極限で同一の振動数に収斂している。この関係は、動的分極モデルの予測と完全に一致する。

J. Phys. Chem. 106, 3614-3620 (2002).
Fig. 1

図1

図2

(2) 2-アミノピリジン/酢酸系における超高速段階的2重プロトン移動反応機構の解明

プロトンが一連のサイトを次々に移動し運搬されるプロトンリレーは、生体膜の内部と外部の間にpH勾配を作り出し、ATP合成を駆動することによって、多くの生物過程で重要な役割を果たしている。光誘起2重プロトン移動反応は、プロトンリレーの素過程として、強い興味が持たれ、これまで多くの研究がなされてきた。この2重プロトン移動が、協奏的(2つのプロトンが同時に移動)に進行するのか、段階的(2つのプロトンが順番に移動)に進行するのかについては、この10年間大きな論争が続いている。我々は、ピコ秒時間分解蛍光分光を用いて、2-アミノピリジン/酢酸系の光誘起2重プロトン移動による互変異性化反応の機構を調べた。その結果、励起直後に酢酸のプロトンが2-アミノピリジンの環窒素に移動してプロトン化2-アミノピリジンカチオンラジカルが生成し、続いて2-アミノピリジンのアミノ基のプロトンが5ピコ秒の時定数で酢酸アニオンに移動して互変異性化が完了することがわかった(図3)。すなわち、2-アミノピリジン/酢酸系では、プロトン移動が段階的に起こることを、対イオン型中間体を分光学によって同定して疑いの余地なく証明した。また、2番目のプロトン移動反応速度が顕著な温度異存性を示すことを見出したが、アレニウスプロットから得られた活性化エネルギーにH/D同位体効果が見られなかった。この結果は、既存の理論では説明がつかない。現在、対イオン型中間体の溶媒誘起動的分極の概念を導入した新しい理論を用いた解析を試みている。

J. Phys. Chem. 106, 2305-2312 (2002).
Fig. 3

図3

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