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Hamaguchi Lab.
濵口研究室

― 物質と生命をつなぐ分光物理化学 ―

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研究レビュー 2000年度

(1) "偏光分解コヒーレント-アンチスト-クスラマン(CARS)分光法による液体、溶液中の分子対称の探査"

ラマン散乱の偏光解消度は、液体や溶液中の分子間相互作用を鋭敏に反映する分子対称を調べるうえで有用な情報を含んでいる。我々は、従来の自発ラマン散乱法に比べて1桁以上優れた±0.002という高精度で偏光解消度を決定することができる新しい非線形ラマン分光法、偏光分解コヒーレント−アンチストークスラマン(CARS)分光法、を開発した。この方法の有用性を調べるために、シクロヘキサンと 1,2-ジクロロエタンについて測定を行った。シクロヘキサンの2本の非全対称バンドの偏光解消度はr=0.749±0.002とr=0.750±0.002となり、理論値0.75と非常によく一致した。この結果は、シクロヘキサン分子が液体中でD3d対称を保持していることを示す。1,2-ジクロロエタンには、全対称モードに帰属されながら偏光解消度が0.75と報告されている2本のバンドが存在するが、これらのバンドの測定結果は、0.746±0.003および0.742±0.003となり、僅かではあるが有意に0.75と異なることがわかった。この結果により、これらのバンドの全対称モードへの帰属が正しいことが確認された。最近の測定により、MgSO4の水溶液中で、硫酸イオンの対称が正八面体構造から動的に低下しているという新しい興味ある現象が見いだされた。水溶液中でのMg2+-SO42-イオン対の寿命が極めて短い(ピコ秒程度)ためにこのような現象が起こるものと考えられる(Chem. Phys. Lett., 339, 351-356 (2001) )。

J. Raman Spectrosc., 31, 725-730 (2000)

(2) "溶媒誘起動的分極と分子振動位相緩和に対する新しい理論的アプローチ"

溶質・溶媒相互作用、とくにその動的側面を解明することは、溶液中の化学反応を微視的に理解するうえで極めて重要である。我々はすでに、溶媒・溶質相互作用が、溶媒に誘起された溶質の時間に依存した分極としてモデル化できることを示した(動的分極モデル)。この動的分極の概念をさらに実体化させるために、分子動力学シミュレーション(MD)と分子軌道計算(MO)を組み合わせ、溶液中で動的に分極している分子の振動スペクトルのバンド形を計算することを試みた。アセトニトリル中のアセトンのC=O伸縮振動をまずとりあげた。まずMDシミュレーションにより、溶媒分子の瞬間配置を求めた。つぎに、溶媒によってアセトン分子上に作られる瞬間的電場を計算した。この瞬間的電場と、有限電場法を用いてMO計算により求めた分子振動数を組み合わせて、瞬間的分子振動数のクーロン相互作用項を計算した。レナード・ジョーンズ項は、MDシミュレーションにより得られている瞬間配置から古典的に計算した。このようにして得られた瞬間的分子振動数から久保の理論により振動バンド形を計算した。その結果、MDパラメーターを何ら調節することなく、アセトンのC=O伸縮赤外バンド形を忠実に再現することができた。したがって、MOシミュレーションによって得られた溶媒の瞬間配置は、現実の溶媒ダイナミクスを正しく反映していると考えられる。この瞬間配置から得られたアセトン分子の動的分極の様子を図1に示す。今回開発した理論的アプローチに基づいて、様々な実験条件下で得られた振動バンド形を定量的に解析することにより、溶質・溶媒相互作用を微視的に解明する道が開けた。

Chem. Phys. Lett.,326, 115-122 (2000)
Fig. 1

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