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Hamaguchi Lab.
濵口研究室

― 物質と生命をつなぐ分光物理化学 ―

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研究レビュー 2001年度

(1) 電場変調赤外吸収分光法の開発と液体、溶液中の分子構造研究への応用

液体や溶液中で起こる多くの分子現象は静電的相互作用によって支配されている。外部から印加した電場に対する分子の応答を分光学的に探索することにより、この静電相互作用について有用な情報を得ることができる。我々は、外部電場に対する分子応答を赤外線吸収により検出する電場変調赤外分光法を開発した。図1に、1,2-ジクロロエタン液体の1400 cm-1 ~ 850 cm-1の波数領域での電場変調赤外スペクトル(a)を、通常の赤外吸収スペクトル(d)と比較して示す。赤外吸収バンドが存在する波数位置に複雑な形状を示す電場変調信号が観測されている。これらの電場変調信号は、2つの成分、すなわち吸収バンドと同じ形状を示すゼロ次微分成分(b)および吸収バンド形の1次微分の形状を示す1次微分成分(c)からなることがわかった。ゼロ次微分成分はゴーシュ異性体の配向分極と、電場によって誘起されるトランス-ゴーシュ異性体間の平衡のシフトに由来する。1次微分成分は電子分極によるものである。ゼロ次微分成分の解析により、トランス-ゴーシュ異性体間の自由エネルギー差DGを初めて実験的に決定することができた。さらに既知のエンタルピー差DHを用いてエントロピー差ΔSを求めた。得られたエントロピー差ΔSから、双極子-双極子相互作用により、液体中のゴーシュ形の並進運動がトランス形に比べて大きく制限されていることが明らかとなった。

Chem. Phys. Lett., 347, 403-409 (2001).
Fig. 1

図1

(2) イオン液体中で光異性化反応は進行するか?

イオンのみから構成され、常温で液体である一連の化合物はイオン液体と呼ばれる。イオン液体は、物質相としての液体の本性を研究するうえで大変有用なモデル系を提供する。またイオン液体は、強い極性と高い粘性を持ち、これまでの溶媒にない特異な分子環境を作り出す可能性があり、新しい溶媒群として注目されている。我々は、イオン液体の基礎物理化学的性質、その構造とダイナミクス、溶媒としての電気的、機械的性質に興味を持っている。トランス-スチルベンの光異性化反応は、最も基本的な光化学素過程として様々な手法により広範に研究されており、強い溶媒依存性を示すことが知られている。高い粘性を持つ溶媒中では、C=C結合回りの回転が阻害され、異性化反応速度が低下すると考えられている。したがって、通常の溶媒に比べ2桁も大きい粘度(312 cP)を持つイオン液体1-butyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphate ([bmim]PF6) 中でトランス-スチルベンの光異性化反応が進行するのかどうか調べることは大変興味深い。実験の結果、[bmim]PF6中でトランス-スチルベンの光異性化反は確かに進行し、その速度kisoが6.6×109 s-1 であることがわかった。[bmim]PF6と同程度の極性を持つアルコール溶媒中での濃度依存性を外挿すると、kiso=9.7×108 s-1 が得られる(図2)。すなわち、観測された異性化反応速度は、外挿値に比べて約1桁大きい。この事実は、イオン液体の溶媒としての特性評価には、極性と粘度に基づいた従来の枠組みが適用できず、分子レベルでの新しいアプローチが必要とされることを示している。

Chem. Lett., 2001, 736-737 (2001).
Fig. 2

図2

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